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債権法改正セミナーを終えて

11月1日の債権法改正に関するセミナーを終えました。ご参加の皆様、長時間のおつきあい本当にありがとうございました。パワーポイントのスライドが1テーマで100枚を超えたのは、なかなかありません。

 

民法の勉強は、弁護士であれば司法試験の時から最も時間を割いて学習していたテーマではありますが、実務の世界、特に企業法務のこれまでの経験を踏まえますと、実際に使う場面はそう多くなく、特に平時のビジネスの取り組みであれば、会社の信用調査は取引の前提であり、個人の連帯保証を取るとか、担保のため債権譲渡を行うとか、債権者取消権、不動産賃貸借等の法律関係で悩むことはほとんどありませんでした(サービス停止せず多額の与信を与えてしまうこと自体会社ではコンプライアンス上問題になります。)私は大阪の一般民事の法律事務所に在籍していたことがありましたが、そこでは、信用の薄い取引先との取引が盛んで、破産、保全、執行の側面でこうした知識は日常に使っていました。他方、東京に移ってしばらくは大手の法律事務所でファイナンスの分野である債権流動化にかかわっていたため、債権譲渡や倒産隔離に関する様々な技法を検討しなければなりませんでした。異議なき承諾、弁済代位、履行引受け、求償権の担保などです。もっとも「オリジネーターが倒産したら」を想定した対策をとるといっても、大手の信販会社、貸金業者等の債権譲渡のため、実際に倒産状態の会社を相手に裁判手続きに持ち込む一般民事系の法律事務とは異なり、一風変わった契約上の作りこみが中心になります。債権法知識を駆使し当事者自治に偏重気味なため、ファイナンスローヤーと裁判手続き中心の倒産法の先生方とで同じ債権法の解釈で相いれないという話はよくあることでした。

 

余談はさておき、半年を切った民法改正ですが、思ったほど契約条項案を誇示する書物が出回っていません。また実務対応本を見ても、改正民法から外れて条項の見直し一般を論じているものも散見します。結局民法が任意規定にすぎず、当事者が特約すれば、基本的にはそれに従えばよいため(どっちかに有利にすれば他方に不利になる)、個人保証の極度額、請負の担保責任期間等限られた部分を除けば、共通した対応項目が存在しないということなのかと思います。11月4日の日経新聞朝刊の法務欄では改正民法がテーマになっており、譲渡禁止特約の関係で、国土交通省の標準約款が待たれるとの記事が出ていますが、元請会社にすれば、資金繰りに窮した一次下請の有する債権の扱いは大変な問題だと思います。しかし、債権譲渡が困難となる契約上の手当てが実務慣行となっていくなら、結局何のための改正かわからなくなります。

 

各社共通項目が少なく条項案がない状況で、今やらなければならないのは、やはり改正法公布時点から現在までに論じられてきた改正の背景や想定される適用例、新制度であれば想定された利用場面等の検証し、自身の力で自社の運用にそれが妥当するかどうか評価する作業であると思います。よくあることですが、立法関係者の想定は実際の国民(条文の意味を正確に理解しているわけではない)の感覚とかけはなれることがあり得、ふたを開ければ思いもよらない方向で実務運用が定着する可能性があることです。私は、こうした改正の意図するものについて考える力を企業の法務関係者の方につけていただき、独自に対応することで、いつ出回るかわからない標準ひな型に頼ることなく改正民法対応を終えていただきたいとの思いでセミナーを実施しました。立法関係者が講師のセミナーの内容はそれは立派なのでしょうが、当局の執行を意識した業法規制とは異なり、裁判所解釈がメインになっていく分野においては、立法者意図などはその時点の妥協の産物で出発点の解釈にすぎません。法務関係者の多くは民法を学生時代に勉強している人が多いため、法律セミナーの中でも、このような条文知識以外の部分に時間をさけ、バランスよく教育を提供できるのは民法くらいだろうと思っています。